いつも余裕な貴方を、ほんの少し困らせたくて。















「ん〜っ、良い天気! 風が気持ちいいわ〜。」
「そうだねぇ。 晴れてるけどそんなに日差し強くないし、丁度良いかも。」

宿屋の窓を開け放して清々しい空気を一杯に吸い込むと昨日までの戦いが嘘のよう。
私の前にはさっき淹れてもらったばかりの紅茶と、晴れ渡る空を見て穏やかに目を細めているアルクゥの姿。
彼の手元には魔法書があるのだけど、ちっとも次へ進まない。 珍しく書物より外へ関心が向いているみたい。

「ね、紅茶頂いたら外行きましょ! こぉんな絶好のお散歩日和、滅多にないわ?」
「ん、いいよ。 久々の休日だし、お店回りでもしよっか。」

ほんわりと笑うアルクゥにつられて私もニッコリ笑う。
あっちへ行ってみようか、こっちも面白そう、などと話しているうちに紅茶は少しずつ減っていき。

「さてと、じゃあ行ってみる?」
「そうね! 行きましょう!」


立ち上がって並んだ途端、私達の前を一陣の風が通りすぎた。


「なっ、何!?」

その風は宿屋のドアを勢い良く開けたかと思うと、けたたましい音を立てて乱暴にドアを閉めた。
呆気にとられている私達の耳に入ったのは、微かな溜息。

「あ・・・イングズ?」

眉間に皺を寄せているのはパーティの兄的存在であるイングズ。
赤魔道師姿なのに、何故か帽子だけが無かった。 部屋に置いてきたのかと思ったのだけど。

「ルーネスに帽子を取られてしまってな。」
「あらそうなの。」
「ルーってば、何やってるんだか・・・。」

同情するように眉根を寄せたアルクゥは、幼馴染みがその先へと消えていったドアを恨めしく見つめた。
壊れなかったから良いとかって問題じゃないんだ、なんて彼の心中が聞こえてきそう。

「何でまた帽子を奪って逃げてったのよ、ルーネスは。」
「わからない。 ただ、私が情報収集に行ってくると告げた途端に機嫌が悪くなって・・・。」

腹いせにイングズの帽子を取って外へ飛び出してしまったワケね。
そこまで聞いて何となくルーネスの不機嫌になった理由がわかってしまった。
アルクゥもやっと納得いったという様子で頷いている。
私もアルクゥも、イングズとルーネスが良い関係になっているのは知ってるから。


「イングズ。 こんな天気なんだもの、デートしたって罰は当たらないんじゃない?」


「な・・・!!?」
「そうそう。 折角の休みなんだから全部忘れてルーと散歩してきたら?」

イングズに構われていたいルーネスは端から見ていても余裕がないのが丸わかり。
逆にイングズはいつも余裕たっぷりに振る舞っているから。
構われたくて、ちょっぴり困らせたくて、ルーネスは彼の手から帽子を奪って走り去った。
追いかけてきてくれることを願って。

「・・・行ってくる。」

小走りに外へと出て行くイングズをアルクゥと見送りながら。
本当はイングズだって余裕無いのにね、と顔を見合わせ二人で笑った。










そこからどうなったのかは本人達にしかわからないけれど。
陽が落ちる頃、手を繋いで帰ってきたから、仲直りしたってことで。


めでたしめでたし、ね。






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アルレフィと見せかけておいて、ちゃっかりグズルーです。
しかもデキた後ってどうなの私(爆
さらに公認ってどうなのさ私(殴
ルーは赤い帽子を大切に抱え込んで、ドキドキしながら走ってるでしょう。
ちなみに、うちのアルとレフィはグズルー応援派です。

2007/05/19