ふと、風を感じて目を覚ました。


風はその街独特の香りを帯びて、ふうわりと部屋に舞い込み頬を撫でて去っていく。
優しい風を身に受けながら窓辺に腰掛けている愛しい少年。
月明かりを浴びて映し出されるのは幻想世界。
銀糸が柔らかに輪郭をなぞり、彼の姿を儚くさせる。
身を起こすと気配に気が付いたのか此方を振り返る。

眠れなくて、と彼は言う。



・・・オレが強かったら、もっと沢山の人を守れたんじゃないかって思い始めたら止まらなくて。



場を重くしないよう笑いながら言ったつもりだったのだろう。
だが、健気な心に反して語尾は震えた。
静かに傍らに佇み髪を梳いてやると、ふつりと彼の緊張の糸が切れてしまった。

乾いていた瞳が泉のように潤い、一粒、また一粒と月光に照らされ落ちる涙はまるで夜空に瞬く星のよう。

こんな時、何と言えば良いのか。
陳腐な言葉しか浮かばない己の知力に心の中で舌打ちをし。
せめて自分に出来ることと言えば。
雫が伝う頬に唇を寄せ。
朝日が昇っても瞼が腫れてしまわぬよう、まじないをこめて口付けを落とす。

そのうちに、彼の腕が緩やかに首にかかる。
うっすらと色づいた形の良い唇へ幾度も口付けた。
角度を変え。 浅く、深く。
は、と切ない吐息を零して彼の唇が離れていく。

落ち着いて睡魔が忍び寄ってきたのか、彼から少しずつ力が抜けた。
筋肉がついてきたとは言え、なお華奢さが残る軽い身体を抱き上げて寝台に横たえる。
もう一度瞼に唇を捧げると規則正しい呼吸が聞こえ始めた。
それに安堵して、すっかり温もりの消えた自分の寝台に潜り込む。



完全に眠りに堕ちる前、微かに聞こえた愛する者の声。





ありがとう、イングズ。






その言葉は、夢か現か。






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肝心な時に言葉が出てこなくて歯痒いグズ兄。
ルーネスは、性格が太陽のように明るくて容姿は月のように清廉で。
逆にイングズは太陽の髪を持っていて、性格は月夜みたいに静かで優しい。
そんな二人であれば良いなと私は思うのです。

2007/06/01