「イングズ、どこ行ったんだろー。 つーか、何なんだよこの人混みは・・・!」

世界を救う旅の途中。 今はサロニアにいたりする。
アルクゥは図書館、レフィアは買い物。 オレは何もしないで部屋のベッドに転がってたんだけど。
そうしているのも飽きたから、イングズにでも構って貰おうと思って部屋を尋ねると留守。
宿屋の女将さんに「ああ、あの金髪の兄さんなら出かけたみたいだよ。」って情報を頂戴したから、いざイングズ探索に街へ出発。
・・・までは良かった。
何故か今までに無い程の人・ヒト・ひと。 街ん中でイベントがあるみたいで、サロニア全人口の約半数は集まってるんじゃないかってくらいの混みよう。
田舎で伸び伸び暮らしてたオレにとって、この人混みは正直キツイ。

「本当にイングズここに来てんのかなぁ。 こりゃ見つけるのにホネが・・・。」
「見つけた!!!」
「うわぁ!!?」

後ろで束ねていた髪を突然思いっきり引っ張られてよろけた。  ・・・ぐぎ、とかって鈍い音がしたけど死なないトコみると首は折れてないみたいだ。
いやいやいや、そうじゃなくて。

「いってぇな! 何すんだよ!」
「何って・・・え、あ、あれ?」

思いっきり不機嫌全開で後ろを振り向いたら、オレと同じくらいの年の男の子(だよな?)が、戸惑い顔で立ってた。
オレンジ・レッドのバンダナに栗色の髪。 吸い込まれそうなオブシディアンの瞳。 背には銀でも鉄でもない、不思議な金属で出来ているらしい槍。
ぽや〜っとしてるようだけど、立ち振る舞いは何処か貴族のような気もするしイングズと同じ近衛兵のような感じもする。

「ご、ごめんなさいっ! 大丈夫?」

どうやら人違いだったみたいで、相手は物凄く焦っている。 そりゃあんだけ髪引っ張っといて人違いなんてシャレにならんよな。
まぁ悪気があったわけじゃないから、これ以上何か言うつもりは無いんだけど。
大丈夫だと頷いたら、向こうは良かった〜と苦笑い。
・・・何だか、そこで別れるのは勿体ないような気がして、人が少ない場所へ一緒に移動した。

「本当にごめんね。 キミの後ろ姿が、あまりにも僕の仲間に似ていたから。」
「いいって。 あの人混みだったし、間違えても仕方ないさ。 でも、そんなに似てたのか?」
「うん。 だって、キミ、銀髪だし後ろで束ねてるし・・・赤い服だし。」

そういえばオレの今のジョブは赤魔道師だったっけ。 イングズとチェンジしたばっかりだ。
しかも帽子は宿屋に置いてきたから尚更間違えられたんだな。

「何なら一緒に捜そうか。」
「えっ、でも悪いよ。」
「オレも仲間を捜してるから丁度いいしさ。 それにまた間違えても困るだろ?」
「う、それを言われると自信無いなぁ。」
「ハゲるかと思ったぜー、さっきは。」
「だから、ごめんってばー!」

何だか、こんな風に冗談言って笑うのが新鮮に思えて。
だってアルクゥとはこんな風にならないし、レフィアとだったら間違いなく喧嘩に発展してるし、イングズは冗談通じないし。

「じゃあ仲間が見つかるまでの間よろしく。 僕はエイトって言うんだ。」
「オレはルーネス。 よろしくな、エイト!」

軽く握手して、再び人混みの中へ突入した。










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きゅうきゅうと人の波に飲み込まれ、ぶつかるたびに相手が眉を寄せる。
つい先日ルーネスとジョブを交換し、自分は戦士になっている。
魔物の攻撃を防ぐために強度のある鎧を装備しているので、当たるとそれなりに痛いのだろう。
申し訳ないとは思うが今はどうすることも出来ない。

「甲冑は外してくるべきだったな・・・おや?」

目に入ったのは友人グループやカップルで賑わうオープンカフェらしき店。
そこに、赤い服を纏い銀の髪を後ろで結わえた人物の後ろ姿を見つけて首を傾げた。
宿に居たであろう彼を思い起こしつつ急ぎ足で近付く。
人波のせいで苦労したが、何とか辿り着いて肩を叩き声をかけた。

「ルーネス! お前もここに来ていたのか?」
「は?」

ゆったりと椅子に腰掛けていたその人が振り返ってまず視界に入ったのはウォーター・オパールの瞳。
耳には金色に光る小さなピアス。 よくよく見れば、傍らのテーブルには大きな弓と矢筒が立てかけてあった。
優男風に見えるが、かなり戦い慣れしているだろう。 動きに全く隙が見当たらない。
その眉が訝しげに顰められているのを見て、慌てて謝罪した。

「す、すまない。 後ろ姿が仲間に似ていたんだ。」
「へえ。 こんな全身赤い服で銀髪の奴がオレ以外にもいるもんなんだな。」

彼は私の行為を咎めるでもなく、さも面白そうにケラケラと笑い出す。

「何、そいつのこと捜してんの?」
「いや・・・宿に居るはずなんだが、貴方の後ろ姿を見て、てっきり街に出てきたのかと・・・。」
「案外そうかも知れないぜ。 たまたま違ってただけで。」
「うーん・・・。」

時間を持て余すのを厭うルーネスのこと。 そろそろベッドに懐くのも飽きた頃だろう。
となると、やはり街に出てきている可能性が大きい。
この人混みに潰されていなければいいが。

「しっかし凄いよなーこの人山! 御陰でオレ、連れとはぐれちまったんだ。 見つからなくて途方に暮れてるってワケ。
 なぁ、オレンジ・レッドのバンダナつけて槍を背負った奴、見なかったか? それがオレの連れなんだけど。」
「いや、あいにくと見かけなかった。」
「そうか。 仕方ねーな。」

ひょいと肩をすくめる仕草は困っているように見えて実は現状を楽しんでいるようにも見える。
普段ならあまり関わり合いになりたくないタイプなのだが。

「・・・良ければ、捜すのを手伝おうか?」

自分でもそんな言葉が出たことに驚いたが、相手も予想していなかったようで目をパチパチと瞬いている。
どうしてか、このまま別れるのは惜しい気がした。

「その、迷惑ならば・・・。」
「全然! むしろ助かるぜ! あ、オレの名前はククール。 えーっと・・・。」
「私はイングズだ。」
「そんじゃあ、ちょっとの間宜しく頼むな、イングズ。」

白い歯を見せて笑うククールから、ほんの少しだけルーネスと似た空気が感じられた。










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ひょんなことで出会ったククールと行動する事になったわけだが。
どうしてだろう、一人で歩いている時より視線を感じる。
それも、女性からの。
ルーネスと一緒に居る時は男女両方から注目を浴びたけれど。

「やーっぱ、目立つのかねぇ。」

ひらり、ひらりと器用に人波を避けて歩いていたククールが、私に言う。
ククールは眉目秀麗だ。 女性の好意的な視線を受けるのも珍しくないだろう。

「前は綺麗なおねーサマとかお嬢さんに見られるのって悪くないと思ってたんだけど。」

ククールは言葉の合間にお愛想程度の微笑みを視線の元へ送っていた。
すると女性特有の黄色い声が聞こえて、その周辺が騒がしくなる。
行為に反して、その口から発せられる言葉は真剣そのもので。

「今は、一番大切な奴がいてさ、そいつの視線しかいらないんだよな。」

ククールから語られた事が、頭の中で二度三度と繰り返される。
私も、同じだ。
以前は陛下や姫様、城の兵士達に期待の眼差しを向けられて内心嬉しかったが。
今は違う。
一番大切だと思える人に出会った。
彼の眼差しが、いかなる時も自分に向いていて欲しい。
その人だけが見てくれれば良いと、思うようになった。
ルーネス。
名前を浮かべると、何故か無性に会いたくなった。
お前は、今、何処にいるんだろう。

「おっ、いたいた。」

ククールの明るい声が私の思考を現実世界へ引き戻した。
彼が指さす方を見ると、彼の捜し人であろうオレンジ・レッドのバンダナと槍を身につけた人物。
エイトであろう人の隣にいるのは、今まさに姿を思い描いていた自分の想い人で。
自分のこの状況を棚に上げ、目の前の不思議な組み合わせに疑問が浮かぶ。

「どうしてルーネスが一緒なんだ。」
「エイトの隣にいるのってイングズの知り合いか?」
「ああ・・・仲間、だ。」
「ふうん?」

私がルーネスのことを仲間と称したところ、ククールは納得いかない様子で短く相槌を打った。
何だか見透かされているようで、どうにも居心地が悪くなったのだが。
ククールの口元がニヤリと歪められたのを見て、良からぬ事を思いついたな、と悟る。

「気配消して近付いて驚かしてやろうぜ。 この人混みだし、ちょっとやそっとじゃ気付かねーよ。」
「しかし・・・。」
「驚いた顔も可愛いんだぜー、エイトって。」

私の抗議の声を無視し、ククールは巧みに気配を操作してエイトとルーネスに近付いていく。
仕方なくそれに倣って進むと、断片的ながらルーネス達の会話が耳に入って。
自分が褒められていると気付いたククールは満足そうにニッと唇の端を持ち上げた。
その時聞こえた、声。

「良い奴なんだな、ククールって。」
「うん。 一番大切な人だよ。」

エイトが言った途端、ルーネスの表情が微かに曇ったのだが。

「ククールの一番大切な人が僕じゃなくても、僕の一番はククールだからそれで良いんだ。」

次に紡がれた言の葉に、ルーネスは身体をビクリとさせて反応する。
同時に私の隣にいたククールが、エイトを背後から抱き締めていた。










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エイトと一緒にエイトの仲間を捜し始めて約二時間。
彼の捜し人の姿は影も形も無い。 ついでにイングズも見つからない。
あーもう。 人混みなんて大嫌いだ! 潰されないだけマシだと思うけど!

「凄いよねー。 どっからこんなに湧いてきたんだろうってくらい。」

オレの心を読んだみたいにエイトが人波を見て言った。
ていうか、そんな、人間を虫みたいに『湧いてきた』なんて言っちゃうエイトが凄いと思うけどどうなんだろうか。

「お互い見つからないよなぁ。 一人は銀髪赤服で目立つハズだろー?」
「そうそう。 キミの後ろ姿は絶対ククールだと思ったのに。 こうやって見ると全然違うんだけどね。」

どうやらエイトの捜し人はククールという名前らしい。 エイトはククールについて色んな事を話してくれた。
弓が得意なこと、回復魔法や支援魔法を使いこなすこと、イカサマが得意なこと(それはマズイんじゃ・・・)
エイトの住んでいた所が大変な目に遭って、そこに初めて一緒に行った時に『気休めだろうけど』と言いながら祈ってくれたんだって。
彼は忘れてしまったかもしれないけど僕は忘れられないんだ、と言ってエイトは目を細めた。

「良い奴なんだな、ククールって。」
「うん。 一番大切な人だよ。」

誇らしげに笑うエイトが、とっても輝いて見えて羨ましかった。
一番大切な人、かぁ。
オレの一番大切な人の一番大切な人は、きっとオレじゃない。
想っていても苦しいだけなのに、想い続けて。
それで良いやと諦めてる自分が居る。

「ククールの一番大切な人が僕じゃなくても、僕の一番はククールだからそれで良いんだ。」

また、心を読まれた気がした。
ハッとしてエイトを見ると、エイトは真っ直ぐに前を向いていた。
どうやら今のは独り言だったみたいで。
ドキドキうるさい心臓を落ち着かせようと深呼吸した瞬間、背後に気配を感じた。
と思ったら、エイトが何者かに背後から抱き締められていて。

「おいおい、やっと見つけたと思ったら何をそんな哀しいこと言ってくれちゃってるワケ? エイトくん?」
「くっ、ククール!!?」

耳元で言われてくすぐったいのか、こんな公衆の面前で抱擁されて恥ずかしいのか、エイトが顔を赤くして慌てた。
そこにいたのは背の高い、オレと似た銀髪を黒いリボンで一つにまとめ、真っ赤な服を着、整った顔をしているおにーさん。
うーん、確かに人混みで見れば間違うのかも知れないけど、ホントに全然似てないぞエイト。
そんな的はずれなことを考えていたら、突然聞こえた耳慣れた声に折角落ち着けた心臓がまた驚いた。

「ルーネス。 お前、どうしてこんなところに居る?」
「いいい、イングズ!?」

そりゃコッチの台詞だ!とツッコミたいのは山々だけど、最優先させるべきは心臓を宥めることで。
あたふたやってる間にエイトとククールの会話が進んでいく。

「お前ね、オレ様の一番大切な奴は誰だと思ってるんだよ。」
「だ、だって、キミはいつも、マルチェロさんのこと・・・!」
「あのなぁ、あんなバカ兄貴なんてオレ、どーでもいいの!」
「だけど・・・!」

突如始まった痴話喧嘩に周囲の通行人が距離をおいている。
当然だ。 オレだって一般通行人なら避けて通るぞこの空気。
なんつーか、アレだ、余所でやれよお前等、ってトコだな。 うん。
イングズまでもが複雑そうな顔をして経過を見守っている。

「オレの一番大切な人はお前だ、エイト。」

エイトの動きが止まった。
ぽかんとククールを見上げるエイトに、彼は、とんでもない事をしでかした。
少しだけ空いた唇に、ちゅ、と軽いキス。
みるみるうちにエイトの顔が羞恥でさっき以上に真っ赤になって、次に怒りの真紅に変わった。

「く・・・くーる!!! 人目のあるところでそういう行動は止めろって言っただろー!!!!」
「わー!! 止め止め止め!! ここで槍振り回したら罪のない人達に被害が及ぶってエイトー!!!」
「そんな照れ屋なエイトも好きだぜオレは。」
「少し口を閉ざせ、ククール!!!」

槍を構えるエイトに、何も考えず告白しまくるククール。
エイトを必死に止めるオレに、ククールを叱るイングズ。


この世ってヤツは、多分。
上手くできてる。










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「すっっっごく疲れた一日だった・・・。」
「そう、だな・・・。」

エイト達と別れたのはカラスもおうちに帰るであろう夕暮れ時。
すっかり人の波も引いていて、街道にはまばらにしか人がいない。
昼間の出来事にすっかり体力を奪われてしまったオレ達二人は、長い影と一緒に宿屋へと向かっていた。

「・・・良いな、エイト達。」

聞こえないように呟いたつもりが、しっかりイングズに聞こえてしまったみたいで。

「何がだ?」

そう聞かれて、ちょっと困る。
言って良いのか迷ったけれど。
言わなかったら言わなかったで傷ついたような顔するだろうから。

「お互い一番大事な人って言い合える仲・・・が、さ。」

正直に、言ってみた。
オレだってイングズに言いたい。 一番大切だ、って。
だけどイングズはきっと迷惑する。 イングズの一番はサラ姫様だろ。 見てればわかるよ、そんなの。
ぐるぐる考え始めると坂を転がり落ちるように考えがマイナス方向へ一直線。
泣きたくなるのを堪えていたら、イングズの大きな手が頭に乗せられた。
え、これって、撫でられてんの?

「この際だから、言っておく。」

いつになく緊張した声が聞こえてイングズを見たら、夕日に負けないくらい耳と頬を染めてて。
そんな顔見るのも貴重だなぁとか他人事みたく考えてたら。

「私の一番大切な人は・・・お前だよ、ルーネス。」

爆弾が、オレに投下されまし、た。
一瞬で思考回路が真っ白にショート。 リフレインされるイングズの言葉。
咄嗟に自分でほっぺたを引っ張ってみる。 痛い。 てことは夢じゃない。

「何をしているんだ、お前は。 ああ、赤くなってしまっただろう。」

優しくオレの頬を触るイングズの手に今更ながら現実味が帯びて、ぼふんと湯気が出たんじゃないかって思うくらい顔が熱くなった。
爆弾を落としたと思ったらこの行動。 オレの心臓そろそろ壊れそう。

「お前の一番が誰だろうと、私はお前が一番だ。」

何も言えないでいるオレに、イングズは寂しそうに微笑んだ。
そのまま歩き出そうとするイングズに、勇気を振り絞って、言った。

「オレの一番は、イングズだから・・・!!」

驚きに開かれた瞳が、すぐに幸せそうに細められて。




















重なった影を見ていた野良猫が、にゃあ、と鳴いた。




















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余談。






「上手く行って良かったね〜。」
「オレ達ってば、すっかり恋のキューピッド?」
「だって、もどかしかったんだもん、あの二人! 想い合ってるのに。」
「まるでオレとエイトみたいだな。」
「そういう恥ずかしい台詞さらっと言わない。」
「すいませーん。」
「棒読みだよ!」
「まぁまぁ、何はともあれ。」
「結果オーライ。」
「な。」
「そろそろレティスのとこに戻ろうか。」
「おう。 ・・・どんな世界に行っても、エイトがいれば怖くねえし。」
「僕だってククールが居れば、平気だよ。」



聖なる光に守られた神鳥と旅をするのは、時の流れから外れた者二人。
その世界で彼等を目にすることは、二度と無かった。










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淡海様のサイトと相互させて頂きました記念として、遅ればせながら贈り物を捧げることになりました。
リクエスト内容は『グズルー&クク主』とのことで。
思いっきりパラレルですけど良いんですかね?(滝汗
クク主はED後設定で。
二人は不老不死というか、時間の流れから切り離された存在になりまして(無茶苦茶な
レティスと一緒に色んな異世界を旅しているという。
たまたま立ち寄ったFF3の世界で、余りにもグズルーがくっつかなくてヤキモキ(笑
で、一肌脱いでやろうと。  クク主は演技派なのか素で惚気てるのかわかりません。
最後にイングズ視点を入れようと思ったのですが、何かクドイと思ってカット(酷


と言うわけでして、こちらのSSは淡海様のみお持ち帰り自由&8主の名前変更可能ですv
相互有り難う御座います☆

2007/06/24