陽光が燦々と大地に降り注ぐ昼下がり。
オレ達は幻獣の洞窟へと行く前にそれぞれ僅かな休息を取っていた。
木陰で目を瞑って寝転がっていたら「ロック? ・・・寝てる?」と遠慮がちな、それでいて心地良い綺麗な声が聞こえた。
瞼を開いて見れば、傍らにオレの顔を覗き込んでいる少女の姿。

「ティナ。 起きてるよ。」
「隣、いい?」
「もちろん。」

そう言うとティナはふわりと微笑んで、身を起こして木の幹に寄りかかったオレの隣に腰を下ろす。
彼女からなのか、優しい風と一緒に甘い香りが運ばれてくる。

「風、気持ちいいね。」
「ああ。」
「空がとっても青くて綺麗。」
「本当だな。」

二人で澄み切った青空を見上げる。
それきり言葉は交わさず、ただ穏やかに時が流れていって。
聞こえるのは、草木が風と共に内緒話を楽しむように揺れる音。
さわさわ。 さわさわ。
それが長かったのか短かったのかわからないけれど、それまで沈黙を守っていたティナがぽつりと呟いた。

「『幸せ』な時ってどんな感じなのかしら。」

戸惑っていると、彼女がくすりと笑って続ける。

「貴方と出会った時は『不安』とか『恐怖』しか知らなかったの。」
「それは、記憶を無くしていたからだろ?」
「ええ。 みんなと出会って『楽しい』ことや『嬉しい』ことも知った。」

そうしたら自然に笑うことが出来るようになったのよ、と屈託無く笑うティナを見て、オレの心臓がとくりと脈打つ。
最初の頃は怯えた顔ばかりだったが、少しずつ色々な表情を見せていく彼女はとても魅力的で、仲間の誰もが心癒される存在となっていた。
それでもティナにはまだ取り戻せていない感情がある。 人を『愛する』心と、もうひとつ。

「だけど、『幸せ』って何なのかよく解らないの。 ねぇロック。 『幸せ』ってなぁに?」

突然難しい質問をされて思わず考え込んでしまった。
『幸せ』だと感じる事は人それぞれだから、特定は出来ないのだけれど。
少しでもオレの答えがティナの『幸せ』のヒントになれば。

「そうだなぁ・・・そうしてると落ち着いて安心出来るとか、楽しくて居心地が良いとか。」
「??」
「例えばほら、エドガーあたりなんかだと女の人と話してる時が一番『幸せ』そうじゃないか?」
「確かに・・・その時はエドガーがキラキラ輝いて見えるわ。」

例え話がこんなんで良いのかという疑問は残りつつも、解りやすい例を常に見せてくれている砂漠の王に感謝する。
きっと海の向こうの大陸で、盛大にくしゃみをしていることだろう。

「じゃあ私はみんなと一緒にいる時がとても『幸せ』なのね。」

何処か遠くを見つめながら、ティナが目を細める。

「みんなといると楽しくて、嫌なことなんて全部忘れちゃう。 不安になっても、みんながいるから大丈夫って思うの。」
「そうか。 ティナの『幸せ』がひとつ見つかったな。」
「ふふっ、何だか嬉しいわ。」

新しい発見をした無垢な子供のように喜ぶティナを見て、つられて笑う。
こんな時間がいつまでも続くといいのに。
ぼんやりとそんなことを思っていたら、でもね、とティナが言う。

「一番『幸せ』だと思うのは貴方といる時よ、ロック。」
「えっ?」
「誰よりも、ロックと一緒にいる時が安心して落ち着くし、貴方の言葉で私はいつも勇気づけられてるわ。 最初に出会った仲間だから、かしら? 心が温かくなる・・・そんな気がするの。」

『愛する』ことを知らないティナのその言葉は、精一杯の愛情表現。
それでもオレには充分すぎるほど伝わって。
気が付いたら、ティナの細い肩を抱き寄せていた。

「・・・ロック・・・? 急にどうしたの?」
「ん・・・幸せだと思って、さ。」
「本当?」

私を『幸せ』にしてくれるロックを『幸せ』に出来るなんて素晴らしい事じゃないかしら。
そんな風にティナが笑うとオレの心は満たされて、ずっとティナの安らげる場所でいられたら良いと願う。




ティナ。 キミといると、それだけでオレは幸せなんだ。






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本当は違うキャラの違う話だったのに、どうにもしっくり来なくて最初から話を書いてみたら。
何とロクティナの完成。 これには書いた本人もビックリ(笑
FF6でSSは初めてかも。 絵は結構描いてますけどね。

このSSは個人的に八坂妹に捧げたいと思います。
返品も承ります(苦笑

2007/11/15