魔法律家にだって賞与はあるんです。
一年に二回とかって頻度じゃないですが、確かに賞与…ボーナスのようなモノが存在してるのですよ。
毎年ランダムに選ばれる魔法律家とその助手に限られているので、存在を知らない人がほとんどだと思いますけれど。 しかも額は雀の涙。
何でそんなモノが有るのかと言いますと、たまには美味しい食事でもとってリフレッシュして今後も頑張って下さいねーって事らしいです。
それだったら、も少し金額増やして旅行くらい行けるようにしてくれよ!との声が聞こえてきそうですが、魔法律協会も一般企業と同じで経費諸々にはシビアですから。
え? そりゃ厳しいんじゃなくて単にケチなだけだろ、ですって? まぁまぁ、貰えるだけ有り難いと思いませんと。

で、今回賞与を受けることになった魔法律事務所に六氷魔法律事務所も入っていたりするわけなのですが、さてはて六氷と草野の反応や如何に。





 24.中身は何






「ムヒョオ〜! 魔法律協会から郵便だよ〜!」

漫画のキャラクターがついたエプロンを着け、お玉片手に軽やかな足取りで事務所内を歩き回るのは六氷の嫁…もとい、助手の草野。 通称ロージー。
どうやら今日は仕事が午前中に片付いていたようで、昼食後から夕食の仕込みをしていた模様。 先日六氷が魔法律を使ったので、夜には起きるだろうとの草野予報。 ちなみにこの予報、百発百中って話ですよ。 あ、だから夕飯に力が入ってるんですね。 ナルホド。
ところが、突然やってきた協会からの郵便物が書留とかいう珍しいモノだったんで、思わず六氷に呼びかけてしまってます。 草野、それ書留は書留でも現金書留ですからね、丁重に扱って下さいよ。
一方、夢から突然現実へ引き戻された草野の旦那(本人がコッソリ言ってるんですって! いやホントに)六氷透は、睡眠を妨げられたことにより只今絶賛不機嫌中。 とは言え愛しの草野に起こされたのでマシな方ですけども。 これが火向裁判官だったら事務所が地獄へ豹変しますから。

「…ったくウルセーな。 何だってんだ。」
「だからぁ、魔法律協会からムヒョ宛に郵便だってば。」
「中身は何だ?」
「あれ、何だったっけ? 書留っていうのは聞いてたけど、お鍋を火にかけっぱなしだったから台所が気になって郵便屋さんの話ほとんど聞いて無いや。」

恐るべし主夫魂。 お鍋に気を取られて現金書留という言葉の『現金』って部分が頭から抜け落ちてます。 主夫だったら現金って単語に反応しそうなモノですけど、彼の場合は六氷のために作る夕飯の方が優先されるようですね。
草野の話を聞いて大したことは無いと判断したのか、台所から良い匂いが流れてくるのを確認して六氷はもそもそとベッドに潜り直してます。 ロージー特製『ムヒョおはよう!記念・特製晩ご飯』は寝て待てって事でしょうか。

「ちょ、ムヒョ? 開けてみないの?」
「まだ眠ィんだよ! 取り敢えず今は寝る。」
「えぇえ、中身が凄く気になるんだけど!」
「そんなに気になるんだったら開けてみりゃイイだろうが。」

どうせオメェに見られたってイイ文書だろ、との言葉に草野の好奇心が疼いたようです。 顔を綻ばせながら封筒を見やるとソコには『親展』の印が。
親展。 それは『名宛人自身が開封して下さい』って要求されているんです。 草野もそれは承知しているので、いくら六氷が許可したと言っても開けることはしません。

「親展になってるからムヒョじゃないと………って寝てるし。 しょうがないなぁ。 ……あーっ! お鍋忘れてたッ! 焦げちゃうよぉ!」

あの短い時間に寝付けるなんて、どっかの漫画に出てくる少年のようです。 草野は中身が解らない封筒を取り敢えず机の端に置いて、急いで台所のお鍋の前に戻るのでした。
現金が入ってるってちゃんと聞いてれば、不用心に机上へ置き去りにすることも無いんでしょうに。 封筒に入ってる賞与も泣くってモンです。
そんなこんなで書留が開封されるのは六氷の起床後……下手をすれば夕食をとってからという事になっちゃいました。




ところで、お鍋の中身は何なんでしょうね?













時間っていうのは意地悪なもので、早くその時になればいいと強く願えば願う程その流れは緩やかになるんですよね。 六氷が目覚めるまでの数時間、草野はまさにその状態だったわけで。
六氷がやっと起き出してきて、これで中身が見られると思いきや、『腹減った』の一言。 まぁ、六氷にとっては草野特製晩ご飯の方が大事ですからね。 今御飯にするから〜とルンルン気分で食卓を彩っていく草野の姿は正に奥さ…いえ何でも御座いません忘れて下さい。
一種の芸術みたいに、テーブル上に料理が並べられる様を六氷は黙って見ています。 行き来する草野の姿を見る視線が愛おしそうに細められているのは気のせいだと思いたいのですが。 無理ですかそうですか。
数分もしないうちに準備が完了、二人並んで座ってお食事のようです。 向かいにもソファがあるのに、どうして隣に座っているのかが不思議なのですけれど、ソレを聞くのは野暮ってものでしょう。
食べ始めてすぐに六氷が台所に置いたままになっている鍋の存在に気が付きました。 さっき起きた時には確かにコトコト煮込んでいる気配があったのに、今食卓にあるのは確かに手はかかるけれど煮込むようなものは全く無いのです。

「オイ、ロージー。 あの鍋はどうした?」
「えっ、あぁ…アレ?」

困った顔をしてチラリと鍋を横目で見る草野。 内心しまった、と思っているのでしょう。
それでも六氷に問われれば素直に答えるのが我らの草野です。

「じつはシチューを作ってたんだけど…さっき暖め直したら火が強かったらしくて、ちょっと焦げちゃったんだ。 昼間慌てて戻った時には大丈夫だったから油断したみたい。」
「食えねェのか。」
「んー…食べられない程じゃないと思うけど……。」

ムヒョに出すのは気が引けるんだよね…と草野の心の声が聞こえました。
大好きな人には自分に可能な限り最高の料理を食べさせてあげたい。 くぅっ、何とも健気な姿ではないですか。
ふと、六氷が箸を止めて食事の席を立ちました。 向かった先は例のお鍋。
どこからともなく引っ張り出してきた脚立に上がって鍋を掴んで持ち上げると、脚立から降りて食卓(本当は応接用の机なんですけどね)に戻ります。
蓋を開けるとシチューの良い香りがフワリと辺りを包みました。 草野の得意料理のひとつ、さらに言うなら六氷の好物のひとつなのです。 勿論、成長に欠かせない牛乳もたっぷり入ってます。
草野がオロオロしているのを横目に六氷が中身を覗くと、焦げて茶色になったシチューがミルク色のシチューの中に浮いています。 かき混ぜたときに底から出て来たんでしょう。
それに、草野が言ったとおり食べられない程では無さそうです。 草野の手料理を食べないなんて勿体ない事、六氷は絶対にしません。

「フン、余裕で食えるだろコリャ。」
「でもムヒョっ」
「オレがコレを食いてェんだからイイんだヨ。 シチューが好物なのはオメェも知ってんだろうが。」

ぶっきらぼうに言いつつも六氷の耳が微妙に赤身を帯びています。 一方の草野は嬉しいやら照れるやらで頬が染まってます。
御馳走様です。 アテられちゃいましたよ、全くもう。

「じゃあ、焦げてる部分は避けて食べてね。 今お皿持ってくるから。」

とろけるような笑顔を六氷に残し、草野は立ち上がって皿を取りに行きました。
後になってからこの笑顔を思い出してニヤける六氷の姿が容易に想像出来る方が大半なんじゃないでしょうか。 いや、今もすでにニヤけてますけど。
こうして二人の世界を展開させつつ食事は進んでいきました。



ちなみに封筒は机の片隅にヒッソリ生息してます。 いつになったら二人に中身が明かされるのでしょうか。










草野が食器を洗い終わってから、やっと開封された封筒を覗き込むと現金が入っていて草野だけでなく六氷も驚きだったのですが(何せ当たる確率が極端に低いので)、有り難く頂戴することになったとか。


その使い道は、機会が有れば御報告致しますね。






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いつにも増して支離滅裂で腹を切るしか無さそうです(見苦しい
こういう書き方、楽で良いかも。。。 ギャグ限定で。

本当はお鍋の中身なんて話に出てこなかったんです。 どうしてこうなったんだ(爆
魔法律協会から給与は出ていなくても、多少のボーナスくらいあっても良いんじゃないかな〜なんて。