37.手を繋ぐ










「うわぁ、すっかり日が暮れちまった。」

木の実や薬草を入れた駕籠を片手に抱えながら、ルーネスが茜色に染まる空を見上げた。

「随分と奥まで来てしまったしな。 さぁ、この辺で切り上げてウルに戻ろうか。」
「うん、これだけあれば母さんも喜ぶだろ。 帰ろうぜ。」

互いの駕籠の中身を見てルーネスが顔を綻ばせた。
私の駕籠の中にも彼に負けないくらい森の恵みが詰め込まれている。
昼頃からウルの近くにある森に入り、収穫したものだ。

「きっと帰ったら腹ペコだ〜。 アルとレフィア、美味いもの作ってくれてると良いな。」
「あの二人のことだ、お前が腹を空かせて帰ってくる事は予想しているだろう。 心配無いさ。」
「何だよそれ! まるでオレが万年腹減りみたいじゃねーか!」
「強く反論は出来まい?」
「まぁ確かにな〜。」

あはは、とルーネスが声を立てて笑った。
その笑顔につられて、自分も無意識のうちに頬が緩む。
村に着いたら完全に真っ暗だろうな。 母さんの雷、落ちたらどうしようか。
などと言いつつも、彼の歩みは一向に早まる気配が無い。
それは私も同じで、ルーネスが私に合わせているのか、私がルーネスに合わせているのか定かではないのだが
とにかく私達の村へ向かう足取りは、ひどくゆったりとしたものだった。
何故かと聞かれたら、恐らく意見は一致するだろう。


二人きりになれたから。


ここ数日、四人で行動することが多かったので、こんな風にルーネスと会話するのが久しいと思う。
私達の関係をアルクゥとレフィアは容認してくれているものの、流石に二人の前であからさまな言動は出来ない。
今日こうやって二人で森に来ることが出来たのも、アルクゥとレフィアの心遣いによるものだ。 そうでなければ
私ではなくアルクゥが彼の隣にいただろう。

さわ、さわり。

風が生い茂る葉を揺らして駆けて行く。
その中に、ふと違和感を覚えて傍らを歩くルーネスを見る。
途端、かちりと視線が交わった。
かと思えば彼は、つい、と視線を逸らしてしまう。
不思議に思って視線を進行方向へ戻して様子を窺えば、そわそわと落ち着きがない。
駕籠を持たないルーネスの右手が、何かを求めるように握られては開かれ。
はたと自分を見れば、寂しそうに揺れる左の手が映る。
ああそうか、と妙に納得してしまった。
何も言わず、するりと彼の指に自分の指をからめ、互いの手のひらを合わせた。
ルーネスは驚いたのかハッと顔を上げ、此方を見ていたが、やがてぽつりと言った。



「・・・イングズ・・・。 何でわかったんだよ?」



答えは簡単。



「私もそうしたかったからだ。」









薄闇に一番星がきらりと瞬く。

ウルの明かりは、まだ見えない。









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唐突に、ほのぼのグズルーが思い浮かんで2時間で書き上げたシロモノです(マテ
手を繋ぎたいって言えなくて、そわそわするルーネス・・・可愛いんじゃないか?と(笑
相変わらず中途半端に甘い気がする。

2008/02/27