山本武は考えていた。
ふくれているツナと、しょぼくれている獄寺を前にして。
自分はどっちの話から聞いてやったら良いのか。
それとも、同時に言い分を聞いてやったら良いのか。
というより、二人に話し合いをさせるべきなのか。
つーか考え込むのは自分の性に合わないよなーってことで取り敢えず。

「何があったんだよ、おまえら?」

と、切り出してみた。





  
68.損な役回り





野球の試合があって一日学校を休んだ。 結果は圧勝。 良い知らせを友人に持って帰れると山本は上機嫌だった。
珍しく鼻歌なんか歌ってみたりして、本当に上機嫌で一日ぶりの教室に足を踏み入れたのだ。

「うーっす! ツナー、獄で、ら……?」

ガラリと教室の戸を開いた途端、目に入ったのはというと。
明らかに怒っているツナ。
太陽の恵みから忘れ去られてしまったかのような闇を纏って机に突っ伏している獄寺。
そして、クラスメートの『山本、早くどうにかしてくれ!』という切羽詰まった眼差し。
自分がたった一日休んだだけで、どうしてこう変わってしまっているんだか。
ツナと獄寺を交互に見て二人とも話しかけられる雰囲気じゃねーなと早々に悟り、級友に事の次第を聞いてみようと口を開いた時タイミング悪く予鈴が鳴った。

まぁ、休み時間でもいっか。

何故か怯えるクラスメートに「さ、今日も頑張ろーぜ!」などと励ましてやりつつ、山本は自分の席に座ったのだった。


急遽授業の変更があって教室を移動させられたり、英語の授業は視聴覚室でビデオを参考にしながらやることになったり、体育があったりエトセトラ。
そんな感じで午前中の休み時間はバタバタしてしまい、結局昼食の時間まで詳しい話を聞き出すことが出来ず、重苦しい状態のまま三人でいつも通り屋上へ足を運ぶ。
それまでに気付いたことと言えば、ツナはあからさまに獄寺を避けてるくせに、ふとした瞬間に獄寺を盗み見てる事。 獄寺が時折ツナに何か言いたげに顔を上げるも言葉にはならず再び俯いてしまう事。
お互い気になってはいるのだけれど、余程話しかけづらいのか無言で過ごしているらしい。
ツナの方は何とか大丈夫だと思うが、獄寺はかなりストレスが溜まっているんじゃないだろうか。 何せ少し会えなかっただけで「十代目ー! オレ寂しかったっスよ! 十代目に会えないのがこんなにもツライなんて!」と大騒ぎするようなヤツなのだ。 近くにいるのに話しかけることすら許されないとなると…そのうち本気で干からびそうで怖い。

早いトコどうにかしてやんねーと獄寺の命に関わるよなぁ。

誰も何も喋らない異様な空気の中、美味いはずの弁当を味気なく咀嚼しながら山本はどうするべきか考え込んでいた。
考えて、考えて。

冒頭に戻る。








「何があったんだよ、おまえら?」
「……あぁ?」

声をかけて最初に反応したのは獄寺。 おー、人間の言葉わかったか。 良かったなお前生きてるよ無事だよ。
当たり前のことに安心していると横からツナの声が聞こえる。

「別に、何も。」
「おいおい、何も無かったらどうしてこんなんなっちゃってんだよ? 獄寺なんて棺桶に足突っ込む寸前だろ?」
「! 勝手に瀕死にしてんじゃねーぞ野球野郎! やっぱテメェは気にくわねぇ! 今ここで果たす…………ッ」

オレの軽口に激情した獄寺が、例の花火をどっからともなく取り出す。 いやー、ホントいつも思うけどソレどっから出してんだよ。 手品か?
と、思ったら。 物凄い勢いでツナが獄寺を睨み付け、それに気付いた獄寺が一気に大人しくなる。
まさに青菜に塩。

「…帰る。」

ぽつりと言い残して獄寺がとぼとぼ屋上のドアから出て行った。 ぎぎぃ、と鈍く軋む音に続いて、かちゃん、と金属製の音を響かせてドアが閉まる。

「何か、すげー険悪なのな、おまえら二人。 オレが遠征行く前は獄寺がツナにべったりだったろ。」

笑いながらツナに話しかけると、唇を尖らせてツナが抗議してきた。

「だって、アレは獄寺君が悪いんだよ! あそこまでしてほしいなんて誰も言ってないってのに!」
「うんうん、わかったからさツナ。 ちょっと落ち着けって。」
「山本ぉ…。」
「ほんと何があったんだよ? らしくないぜ、ツナ。」
「うー…。」

渋々語り出したツナの話によると。
昨日の放課後、補習常習犯のツナは例によって居残りをさせられていた。 当然、獄寺もそれに付き合って、ツナの補習が終わるまで校門で待っていたらしい。 夕方くらいになって補習から解放され、待ちぼうけを食っている獄寺の元へ急いで行こうと全速力で走っていたら、玄関を出たところで運悪く柄の悪い先輩とぶつかってしまった。
案の定因縁を付けられて絡まれているところに獄寺が駆けつけ、お得意の花火を取り出して着火。 んー、良いコは真似しちゃ駄目だぞ。
結局先輩方はボロボロ。 真っ青になったツナが「どうしてここまでするの!」と獄寺に詰め寄ると、「十代目をお守りするためです。」と獄寺が至極真面目に言ったそうだ。
それを聞いたツナの中で、何かがブツリと切れたらしい。
急に何も言わなくなったツナを前に慌てる獄寺を取り残して、そのまま帰宅し今日に至ると。

「そりゃ、守ってくれるのは嬉しいけどさ。 もーちょっと、方法ってのがあるじゃん? オレが無事なら良いワケだから、先輩丸コゲにしなくたって!」
「はは、確かにやりすぎってーのは認めるけどなー。」

大好きなツナが絡まれていて怒らないヤツがどこにいるってんだ。
オレとしちゃ、獄寺の行動は理解出来る。 オレもその場にいたら先輩方ぼこぼこにしちまってたかもしんねーし。

「……それに……」

ツナが床を見つめたまま呟く。 いつものツナの表情がそこには無い。 あるのは、哀しそうに揺れる瞳。

「あんな爆発起こして人を傷つけて、それが問題になっちゃって、獄寺君が退学とかなったら……オレを守って獄寺君が居なくなるのは、やだ。 絶対。」

あぁ……それでか。 何だ、結局ツナも獄寺のこと好きなんじゃん。 
自分を助けるために花火は使うなと。 もし問題が起きて退学になったら嫌だと。
怒ってはいるけど本心では獄寺を傷つけた事を後悔してる。 冷たく突き放してるようで、実は物凄く心配してる。
不意に胸のあたりがズキン、と疼いた。 ちぇ、最初っから勝ち目無しかよオレ。 逆転サヨナラ満塁ホームランの望みは限りなくゼロに近い。

「ツナ、それちゃんと獄寺に言ったか?」
「え…ううん、言ってない。 あれから一言も喋って無いし…。」

そこまで言って項垂れるツナの頭を、わしわしっと撫で回してやる。
「わ、急に何!」とツナが叫んでいるが止めてやんない。これっくらいのスキンシップくらい許されるよな?

「今オレに言った事、そっくりそのまま獄寺に伝えてやれよ。 アイツ大喜びで花火使うの止めるぞ。」
「そう…かな?」
「ん、オレが保証してやるって。 一年間有効の保証書つけっか?」
「えー、たった一年間!?」

俺の冗談にツナが笑った。 あーやっぱツナ可愛い。 獄寺には勿体ねー。
だけど、ツナが選んだのは獄寺だから。

「んーじゃ早速獄寺と話しよーぜ、ツナ!」
「うん……って、獄寺君帰っちゃっただろ。 もう校内には…」
「もしかしたら居るかもしんねーし、探してきてやるからツナそこで待ってろよ。」
「ちょ、そんな、いいって山本!!」

慌てて呼び止めるツナを心を鬼にして屋上に残し、獄寺を探しに階下へ向かった。




心当たりを探してみたけど獄寺は居ない。 やっぱ帰っちまったかなーと諦めかけた時、微かにタバコの香りがした。
白昼堂々学校の敷地内で喫煙するってのはアイツしか思い浮かばねー。
校舎の側面にある非常階段半ばで、捜索中の人物はどこか遠くを見ながらタバコを吹かしていた。

「お、ここにいたか獄寺。」
「………何しに来た。」

言葉で凄んでいるけれど、目に全く覇気が無い。
追い返されるかと思ったが獄寺にはそんな気力も無いらしい。 オレに構わず煙を吐き出す。

「冷てーなー。 折角ツナのお使いでここまで探しに来たってのに。」
「……十代目の?」

獄寺の身体が強張った。 まるで死の宣告をされたかのように顔から血の気が引いていく。

「そ。 獄寺に話があるんだと。」
「……怒ってらっしゃるんじゃねーのか、十代目。」
「うん。 すっげー怒ってるツナ。」
「…ッ!」
「だけどな、獄寺。 ツナが怒ってるのはお前を心配してっからなんだぞ。」 
「…お、オレを…?」

ツナは自分の行動に対して怒っているのだと思い込んでいる獄寺は、オレの言っていることが理解出来ないと言いたげに複雑な表情を浮かべている。
教えてやろうかどうしようか、ほんのちょっと迷ったけど。

「ツナ言ってた。 『オレを守って獄寺君が居なくなるのは、やだ』ってな。」
「じゅ…うだい、め……が?」

やっぱりオレからだと信じられないようだ。
だけど、獄寺の目に生気が戻ってくるのが見えた。 十代目・ツナの効果はすごい。

「信じらんねーなら自分で直接聞いて来いよ。 ツナ、まだ屋上に居るからさ。」
「…! 十代目!!」

今にも泣き出しそうな顔をして獄寺が立ち上がる。
獄寺がすんなりツナと仲直りするのを想像して、何だか少し腹が立った。
走り出そうとする獄寺の肩を掴んで引き留める。

「んだよ! テメーに用はねえ! 放しやがれ!」
「しゃーねーなぁ。 手短に言うから、よく聞いとけよ?」
「あぁ?」

肩を掴んでいた手を放し、かわりに胸倉を引っ掴んで思い切り睨み付ける。
獄寺も負けじと睨み返してくる。 ここまで回復したんなら大丈夫か。
だけど、これだけは言わせてもらう。

「今度ツナを悲しませてみろ。 お前の手からツナを奪って、二度と会えないようにしてやる。」
「んな、山本、テメー!」
「つーことで、ツナを頼むな。 アイツ、慣れないことして結構傷ついてっから。」

へらっと笑って手を放すと、獄寺は弾かれたように身を翻して屋上へと走り出した。
校舎内へ消えていった獄寺を確認すると、くつくつと笑いが込み上げてくる。
遠回りも良いトコだな、あいつら。

「あーあ、フラれたうえに嫌われ役? オレってホント損な役回りじゃね?」

まぁ、それで大事な親友二人が良い関係になるんだったら悪くない。






昼休み終了まで、あと十分。






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獄ツナ下地のトッピングが山本(笑
スキあらばツナを攫ってしまおーとか黒い事を考えているんじゃないかと思います。
白山本も黒山本も、両方好きです(お前の中の山本像は一体どうなってんだ