お前は知らない。 お前が来て、オレが随分と変わったことを。 愛のメロディー オレのMLS時代を知るヤツは、俺を訪ねる毎に必ずこう言う。 「ムヒョは変わった」と。 最初こそ鼻で笑って「そんなこたぁ無ェ」と返していたのだが、今は自分でも変わったのだと思う。 それは、コイツの御陰。 「ムヒョ、お腹空いてない? 何か作ろっか?」 香りの良い紅茶を淹れたカップを差し出しながらオレに微笑みかけてくる、オレの唯一の助手。 「…いや、まだ要らねェ。 書類の整理は終わったのかロージー。」 「うん。 他の仕事は昨日で終わってるから、取り敢えず終了だよ。」 そう言いながらジャビンを読んでいるオレの隣に座る。 その手には同じく紅茶の入ったカップ。 一口含んで、ふぅ、と和む姿は見ているこっちも何故か和んでしまう。 「じゃあ少し休め。 ここんところ仕事続きでオメェも休み無しだったしナ。」 魔法律執行後、オレは煉を回復させるために眠りにつくが、その間もコイツは雑用やら掃除洗濯買い出しと忙しく働いているようだ。 そのくせオレが目覚める頃になったら必ずオレの傍にいて、満面の笑みで「おはよう、ムヒョ!」と迎えてくれる。 初めのうちは疎ましく思ったものだが、今ではコレが無いと起きたという気がしない。 むしろ、その言葉を聞くのを楽しみに眠りについていると言っても過言ではないと思う。 そんなこと、コイツには言えないが。 「え、良いの?」 「束の間の休息ってところだがナ。 依頼が来れば馬車馬のように働いて貰うから覚悟しとけ…ヒッヒ。」 「あは、は…。 じ、じゃあ昼ご飯の時間になるまで休ませて頂こうかな。」 オレの脅しじみた物言いに乾いた笑いになりながら、ロージーは立ち上がって自室へと入って行った。 部屋で時間を過ごすのかと思いきや、初級魔法律の本を片手に再びオレの隣に落ち着く。 「休憩しねェで勉強か? 御苦労なこったナ。」 「んー、集中して勉強するのも良いんだけど、たまには気楽に読書がてら勉強っていうのも良いかな〜って。」 えへへ、と笑いながら開いた本に視線を落とすその横顔にドキリとする。 綺麗だ、と思うようになったのはいつからだったか。 窓から差し込んだ陽がロージーを優しく包むと、光に照らされた少しクセのある髪が甘やかな蜂蜜色に煌めき、元々白い肌がなお透き通って見える。 ふと、触れてみたい衝動に駆られて手を伸ばしかけ、慌てて引っ込めてジャビンに目を向けた。 ロージーに触れたいという欲求に戸惑いを覚えたのも過去の話。 その気持ちの正体に気付いてからというもの欲求は強くなるばかりで、抑えるのに一苦労だ。 そんな葛藤に気付かれないよう必死にジャビンに集中しているように見せる。 案の定、少しも気付く様子が無く、ロージーは魔法律書を流し読みしていた。 細く、長い溜め息をついて、そのまま読書を続ける。 実際、本の内容は全く頭に入らなかったのだが。 どれくらい時間が経ったのだろう。 不意に腹の虫が切なげに、くぅ、と鳴いた。 ハッとして時計を見ると正午を軽く過ぎている。 道理で腹が減るワケだ。 「おい、ロージー。 腹減った…………」 声をかけた瞬間、ぱさりと本がロージーの手から滑り落ちる。 「……ったく。 何だかんだ言って、やっぱり疲れてンじゃねェか……。」 読書がてら勉強なんて格好良い事を言っていた助手は、暖かな陽を浴びながら、すぅすぅと気持ちよさそうに寝息を立てている。 無理もない。 自分のことは放ったらかしで、オレの為に尽くしてくれるのだから。 オレが起きていようと寝ていようと、関係無く。 この数日、オレが寝ている間、コイツは何をして過ごしていた? 何時間睡眠を取った? それすら想像出来ない。 ただ、ロージーの目元に薄くクマが浮かび上がっているのを見る限りでは、毎晩遅くまで勉強でもしていたんじゃないだろうか。 「…思いっきり熟睡してるナ。 人の気も知らねェで………。」 恐る恐る手を伸ばして髪に触れる。 それは絡まることを知らず、指の間をスルリと流れていく。 ロージーが起きないのを良いことに、次は頬に触れてみた。 くすぐったそうに瞼が揺れるが、起きる気配は無い。 絹のような肌は掌にスッと馴染んで、とても心地が良い。 飽くことも無く、何度も撫でて。 「なぁ、起きねェのか…?」 起こす気は欠片も無かったが、耳元でそう囁く。 相当眠りが深いらしく、ロージーに反応は無い。 思わず口元が緩んで。 頬に、そっとキスをして。 「……愛してる。」 ずっと秘めている想いを、優しく、呟いた。 その想いが、いつか彼に届くことを願って。 「さぁて。 たまには昼飯でも作ってヤルか。」 座ったまま眠るロージーをソファに横たえて、昼食の支度をするためにキッチンに向かった。 −1時間後− 「わーっ! ごごごごごめんねムヒョ〜! いつの間にか寝ちゃって、お昼御飯が………って、アレ?」 バタバタと慌ただしくキッチンに駆け込んだロージーが見たのは、テーブルに置いてあるオレの料理。 何のことはない、残り物の御飯に焼豚と玉葱、卵などを一緒に炒めて塩とコショウで味をつけただけのもの。 炒飯もどき、と言ったところか。 「フン、誰かが熟睡してっから仕方なく作ってやったんダ。 嫌なら喰わなくても良いからナ!」 「えぇ!? 嫌じゃないよ! ムヒョの料理なんて初めてだから嬉しい!」 本当に嬉しそうに微笑むロージーを見て、極上の幸せを感じる自分が居る。 こんなに喜んで貰えるのなら、気の向いたときには料理くらいしてやろうかと思ったが。 「………………ムヒョ……………これ、塩とお砂糖間違えて無い…………?」 「…………………。」 自分が作った甘辛い飯を食べて、即、前言撤回した。 |
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言い訳。 ムヒョの人格絶対違うと思うんですけど如何なモンですか(滝汗 初めてのムヒョ×ロージーです。 甘くどいことこの上無し。 タイトルの『愛のメロディー』はKOKIAの愛のメロディーから←そのまま。 この曲を聴いたときにムヒョロジだ!と叫んだアタシは重症だと思うのです。 ハイ。 |