台所に立って、鼻歌交じりに食器を洗うロージーの姿。
ジャビンを読みふけりながら、横目でチラリと盗み見るオレ。
ココまでは何の変哲もない日常茶飯事。
だが、今日は9月29日。 オレの唯一の助手であるロージーの誕生日。

だというのに、当の主役はここ最近の忙しさのせいか曜日と日にちの感覚がズレているらしく、自分の誕生日ということをすっかり忘れているらしい。

らしい、というのは本当に忘れているのかワザと言わずにいるのか解らないから。
どっちかというと前者の方が高確率な気もするが。

もう一度チラリと視線を向けてみると、食器の片付けを終えたロージーがポットやらティーカップやらを取り出して何やらゴソゴソとやっていた。
アイツの方から『そういえば今日誕生日だ!』とか言ってくれるのであれば、行動に出るのが楽なのに。
オレから誕生日おめでとう、なんてガラじゃない。
かといって何もしないまま日付が替わるのは困る。

「はい、ムヒョ。」

悶々としているオレに差し出されたのは紅茶ではなくハーブティー。
ラベンダーやカモミールなどをロージー自らブレンドしたモノで、オレがリラックス出来るようにというのが大前提らしい。
カップを置くと、オレの隣に座り料理雑誌を開いている。 つい先程食事を取ったばかりなのに、もう心は夕食に向いているようだ。

「夕飯は何にしようかなぁ。 ねぇムヒョ、リクエスト無い?」

ニコニコと無邪気に問いかけてくるロージーには相変わらず誕生日の“た”の字も浮かんでいない。
しびれをきらしてオレは逆に問いかけた。

「オメェ、何か肝心なこと忘れて無ェか?」
「肝心なこと?」

ロージーは質問の意味がわからない、とでも言いたげにクエスチョンマークを飛ばしている。

「やっぱりか…。」

わざとらしいと自分でも思うが、こうでもしなきゃ日が暮れる。

「えぇえ、何が〜!?」

仕方無ェな、と溜息をつきながら、立ち上がって自分の机に向かう。
取り出したのは、引き出しに大切に仕舞い込んでいた、この日のために用意してあったモノ。

「おらよ。」

ヒョイと小箱を放り投げれば、あたふたとソレを受け取るロージーは尚も怪訝な顔をしている。

「これ、何?」
「その前に今日は何月何日だ?」
「えっと…9月29日……って、あーッ!!?」

自分で言って初めて気が付いたらしい。 余程恥ずかしかったのか真っ青になったり真っ赤になったり一人百面相を繰り返している。
その動きがピタリと止まり、ロージーの澄んだ瞳がオレを映した。




「ムヒョ、覚えててくれたんだね。 ありがとう!」




満面の笑みで言われ、予想はしていたハズなのに照れくさくなってプイと顔を逸らしてしまった。
開けても良い?と聞かれ、好きにしろと無愛想に答える。

「わぁ……綺麗……!」

小箱の中身は至ってシンプルな細身の万年筆。 ビコに頼んで作ってもらったもので、本人曰く上手く作れたとのこと。 ビコは基本的に器用だから魔具以外の物も大抵作れるのだ。
それと一緒に、鈍く光るステンレス・スチール製のしおりが入っている。 同じくビコ製のシンプルなしおりには小さな花の模様があしらわれているのだが、そこにはあるモノが煌めいている。

「花びらの、こことここの部分、綺麗なガラスで出来てるね。 水色のと、こっちは青緑かな?」


『そりゃ正真正銘ホンモノのトパーズとアレキタイプ・ガーネットだ。』


口に出して言おうものなら、どうしてそんな高いもの!とか色々言われるに決まっているから真実はオレの心の中に留めておく。
トパーズはロージーの誕生日石。 石言葉の『卓越した力』とは良く言ったものだ。
最も、本人は欠片も気付いてはいない。
これからオレが少しずつ気付かせてやれば良い。




ゆったりと、二人で月日を重ねて。














〜余談・夕食後の事務所にて〜

「ねぇねぇムヒョォ〜! 昼間見た時は青緑だったガラスが紫赤になってる! 不思議なガラスだねっ!」
「ンなこたぁどーでもイイ。 もっと祝ってやるから有り難く思え。」
「え、ちょっとムヒョ、事務所で・・・ッ!?」

ビコがトパーズと対になるように花びらを飾ったアレキタイプ・ガーネットはムヒョの誕生日石。
その石言葉は。









『昼と夜の愛の変貌』














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無茶苦茶難産だった、このSS。 思うように動いてくれない両者。 文才プリーズ。
石言葉は、ある本を見て判明。 見た瞬間吹き出したのは言うまでもないですね。 特にムヒョ(笑
宝石言葉ネタは今後も続くと思います(爆


何はともあれ、誕生日おめでとうロージー!!